ジャッキー・ロビンソンという人物に関して、昔から何度か調べたことがあった。アフリカ系アメリカ人として初めてメジャーで成功した選手ということで著名で、その経歴を讃える場面が多くあるが、具体的にどのような選手なのか理解できるソースは見つからなかった。
ウィキなどに載っているジャッキーの成績を見ても、長年に渡って圧倒的な活躍をしたわけではなさそうだし、エピソードを探しても詳細は曖昧。もっと彼のことが理解できるどっしりとした資料が見てみたかった。
そんな彼のことが映画化されるということで、製作が始まった段階から完成を期待して待っていた。公開されてすぐに観に行けず、ダラダラと映画化されていたことを忘れていたが…思い出して良かった。笑
・STORY
史上初の黒人メジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの半生を、ブルックリン・ドジャース(現ロサンゼルス・ドジャース)のジェネラル・マネージャー、ブランチ・リッキーとの交流を軸に描いたドラマ。1947年、ブルックリン・ドジャースのGMだったリッキーは周囲の反対を押し切り、ロンビンソンとメジャー契約を結ぶ。2人はファンやマスコミ、チームメイトからも誹謗中傷を浴びせられるが、自制心を貫き通し、プレーに徹するロンビンソンの姿勢に、次第に周囲の人々の心もひとつになっていく。「L.A.コンフィデンシャル」のブライアン・ヘルゲランドが脚本・監督。リッキー役のハリソン・フォードは、キャリア初の実在の人物を演じた。
・ニグロリーグの存在
アフリカ系の選手のみで形成されたニグロリーグの存在がショックだった。どこかで調べた時に知っていたが、いざ映画で再現されると生々しくも切ない。
ニグロリーグ時代のジャッキーは打率の高いアベレージヒッター。走塁では成功率の高い盗塁と、相手バッテリーをかき回す挑発的なリードが魅力であった。「おい、そのリードやめろ!」と言われながらも、挑発しながら盗塁を決めまくる。このジャッキーのスタイルが、後のメジャーでの差別の目を痛烈にしたことだろう。(同じ肌の色の選手にだって嫌われるプレー)
ニグロリーグの選手を乗せたバスがハイウェイのガソリンスタンドで給油してると、ジャッキーはトイレを借りようとする。その時ガソスタの店員の白人に「黒人にはトイレは貸せない」と言われる。とてもショッキングなシーンであったが、ジャッキーは負けじと「ホースを外せ。他で給油する」と反撃し、結果トイレを借りることに成功する。
元々のジャッキーの性格を知るには、このニグロリーグ時代での言動や行動が重要。のちにメジャーでどれだけ我慢強い選手になるか・・・。プレーでもプライベートでも強く出る性格であった彼が、メジャーの舞台で散々な待遇に耐えれたんだから、そりゃ凄い。
・40年代の戦後のアメリカ(衣装・車)
実はこの映画には「日本」というキーワードがよく登場する。それは時代背景が第二次世界大戦の直後だったからだ。ナ・スという言葉も揃って登場するシーンがあり、日本人的にはややアウェイな気持ちで鑑賞するかも・・・。
1940年代後半の戦後のアメリカを忠実に再現しており、衣装から車、街並みまで完璧に作り込まれている。野球のグラブ、バッド、グランド、そしてユニフォームの着こなしやプレーのまでもが40年代仕込み。ここまでガチで再現するとはさすがハリウッド。
イーストウッド監督の映画「父親たちの星条旗」(戦時のアメリカ)でのアメリカは、破綻寸前で国債を売ることに必死だった。戦後はアメリカもそれなりに苦しんでいたと思い込んでいたので、この映画での栄えたアメリカ人の暮らしは、別の意味で衝撃・・・。ちゃんと歴史の勉強しないからこうなると後悔した。
当時の大日本帝国は、プロ野球選手も戦場に派遣し、軍人として扱い、多くの有望な野球選手を戦争で失っていた。沢村栄治投手など、アメリカでも有名な野球選手は「投降しろ」と敵軍に保護される動きがあったが、日本を裏切れず、そのまま戦い、戦争で命を落とした。
有望な選手を失くし、金銭的にも野球どころではない日本と、アフリカ系への差別を抑えスケールアップしようとするアメリカと、その野球の歴史の差に悔しさが芽生える。
ベーブ・ルースやタイ・カッブと戦った日本の野球人たちが生きてコーチしていれば、日本の野球界はもっと早くに発達してただろう。イチロー選手よりも先にメジャーで活躍する日本人がいてもおかしくなかったはずだ。
サッカーだって、戦争の元凶と見られた日本とドイツだけW杯出場が許されず、後の発展に響いた。日本が戦争で亡くしたものは絶大だった。
この映画の中で戦争系のキーワードが出るたび、悔しい気持ちになった。
・「やり返さない勇気」
ドジャースのリッキーオーナーに呼び出されたジャッキーが契約へ向けて話し合うシーン、いきなり年俸と契約金を持ち出し、大胆で大雑把な誘導だが、簡単に白人を信じれないジャッキー的にはさっぱりした会話が逆に関心を寄せたことだろう。
その後、オーナーのリッキーはジャッキーと自分が信仰してる宗教が同じということで、宗教的な表現でジャッキーを口説く。オーナーとジャッキーの間で差別をこらえる約束をする。
ジャッキーはリッキーに対して「やり返す勇気のない選手になれってことか?」と不満気に話すが、リッキーはジャッキーに対して「違う、やり返さない勇気を持て」と切り返す。
「やり返さない勇気を持て」。このワードは映画の宣伝でもピックアップされており、この映画の中で大切なフレーズとなっている。
問題を起こしてしまえば、それこそアフリカ系への偏見は濃くなってしまう。ジャッキーが堂々とプレーし、選手としても人間としても優れていることを証明できれば、後にアフリカ系選手がメジャー球団に入り、球界のスケールアップにつながる。
リッキーはビジネステイクな言い回しと、信仰的な言い回しと会話の緩急が凄い。ジャッキーは「金のためだ」と言いながらも、初めて信用できそうな白人に出会えたことを嬉しそうにしてる・・・ように見えた。
この契約の後にジャッキーは恋人にプロポーズする。嫁は当初は差別にも我慢して耐えていたが、ジャッキーが頭に故意死球を受けた時にはさすがに涙していた。
当時、メジャーではヘルメットで打席に入る習慣はなく、頭部への死球は命に関わる。普通の嫁であれば野球選手を辞めてほしいと言い出すだろうな。
・コンバート三昧
ジャッキーのポジションは、ニグロリーグではショートだったが、メジャー3A(ロイヤルズ)では送球難を指摘されセカンドにコンバートされる。さらにドジャースの二遊間は固定のスター選手がおり、メジャーに上がる前にポジション争いを懸念して空いてるファーストへコンバート。
ひたすらファーストのノックを受けるジャッキーのシーンが好き。ハングリー精神が前面に出ており、何をしても何を言われてもメジャーで活躍してやると、強い覚悟が見える。
しかし、足が魅力のジャッキーだけに、仮にセカンドでプレーしていたら、また一味違う評価がされていたのかな?と。(二遊間時代もキャッチする能力は評価されていた)
メジャーに上がった後に、守備時にわざと足を踏めれるシーンがある。足を使ったプレーが持ち味のジャッキーの足を狙うなんて、人として最低すぎる。あの怪我がなければ・・・って考えた時に、彼にとってのファースト守備の負担の大きさを尚更考えさせられる。(実際は牽制もらってタッチしただけで酷いこととか言われてそう)
・メジャー昇格後のロッカールーム
オーナーのリッキーは、ジャッキーをメジャーに昇格させることを決めると、ドジャースの監督に彼へ敬意のある扱いを求める。選手間で、ジャッキーとプレーしたくないという署名運動があることを知ると、その選手をトレードに出すなど思い切った行動にでる。
監督は女優と不倫していたということで謹慎になるが、しっかりとジャッキーに真摯に対応する聖人に見えた。選手を深夜に集めて「肌の色が黄色でも黒でも、ゼブラ柄でも構わん。」とチームが勝つための選択をするのがプロだと、選手間のジャッキーへの差別を叱咤していた。
ジャッキーが初めてロッカールームに登場した際には、無視する者と挨拶する者と両極端。そんな態度も想定内のジャッキーは余裕を持って、むしろ差別などどうでも良いって具合にメジャーのロッカーを感動して眺める。大人が夢を持つっていいわー。
ロッカールームのハンガーに掛けてある自分のユニフォームを発見したシーンは胸熱。ユニフォームを手に取ると裏には背番号「42」。栄光的なクラシック音楽が加えられ、大事に撮ったシーンというのが分かる。
目標があると、人に悪く思われても我慢できる。何かとチャレンジ精神を煽る、意識高い系のシーン。メッセージ性を持たせたいという意図が強く、実際に映画の中でも1番を争うほど印象的なシーンであった。
なぜ彼の背番号が42番だったのが、それは謎。この映画の中で詳しく描かれると思っていたが、そのようなシーンはどこにもなかった。たまたま空いてた背番号を適当に渡したのか・・・。のちにその背番号がメジャーで唯一全球団の永久欠番になることは、誰も想像してなかっただろうな。
ちなみにドジャースのキャプテンであり、スター選手であったヒースは、署名運動のサインを拒否し、昇格後の挨拶もきちんと行なっている。どこにだって人格者はいるものだ。
・リッキーと広報担当マネージャー
メジャー契約が決定すると、ジャッキーにはマネージャー兼広報担当が付く。彼はジャッキーと同じくアフリカ系である。
このマネージャーはジャッキーに付きっきりで面倒を見る。泊まる場所から食事する場所など、当時の差別の激しい街でも彼が快適に過ごせるように努める。当初、このマネージャーに対してジャッキーは無口で、嫌悪感を露わにしていた。なかなか心を開かないジャッキーに奮闘する彼の姿が辛く見えた。
ジャッキーとマネージャーの距離がぐっと縮まるシーンがある。ある日の車の中での会話。相変わらず自分の話をスルーするジャッキーに対して、マネージャーは「なぜ俺が三塁側でタイプ(文字を打つ機械)を膝に乗せて座ってると思う?黒人は記者席に座れないからだよ。」と自分も差別と戦っていることを告白する。
そして、「真剣勝負しに来ているのは君だけじゃない。」と言うと、ジャッキーは目の色を変えて「すまなかった。いつも支えてくれるし感謝してるよ。」と初めて感謝の念を彼に伝える。
自分的に「ジャッキーってマネージャーのことどう思ってるんだろう?」と疑問に思っていた。それだけにここのシーンでのマネーシャーとの会話はぐっとくるものがあった。ジャッキーはぶっきらぼうな対応をしてた理由に、「誰かに依存したくない」「人に頼ったことがない」と困惑してるだけだと告白。
人に頼れず、ずっと自分の力で生きてきたジャッキーの人生の厳しさがジーンと伝わるシーン。誰が敵でいつ裏切られるかわからないからバリアを貼る。しかし、実はマネージャーも球団にいる数少ない仲間の一人だと、ジャッキーが勇気を持つシーンでもあったと思う。
・フィリーズの監督のやりすぎた差別とチームメイト
フィリーズの試合でのジャッキーの打席は、彼の心を折りかける。打席に入ると相手の監督がベンチの先頭に乗り出し、ジャッキーに対して差別用語を連語し、明らかに動揺を誘う。
さらにはドジャースの白人選手の嫁さんをジョークの例えに引っ張り出してジャッキーを罵倒する。(嫁がアフリカ系とヤってたぞ的な)
この監督の痛烈なヤジに、ジャッキーは動揺し、凡打を繰り返す。怒り爆発しそうなジャッキーはベンチの裏に逃げ込み、バットをへし折り涙を流す。ここでオーナーが登場し、ジャッキーを慰めるが、約束した「やり返さない勇気を持つ」ことに対して、もう限界だと口論になる
オーナーは我慢して戦えば、どんな新しい世界が待っているかジャッキーに問いかけ、冷静になるよう慰める。
フラフラしながらグランドに戻るジャッキーの姿は、学校でいじめられ登校拒否してる子が親に説得され泣く泣く登校する朝のようで、とても試合に戻る野球選手には見えない。
再び打席が来たジャッキーだが、相変わらず相手監督のヤジが痛烈。しかし今回はチームメイトの白人が相手監督に応戦。
それでも差別用語を繰り返す相手監督に激怒したチームメイトは、ベンチを出て相手ベンチの監督の目の前まで「弱い立場の彼ではなく、言い返せる奴を相手にしろ。」とジャッキーを守る。ベンチに戻ったジャッキーはそのチームメイトに礼を言う。「同じチームだ、当然だ。」←おー!
なかなかジャッキーに歩み寄れないチームメイトが、初めて彼を仲間扱いしたシーン。チームメイトの中には差別に否定的で、いつかはジャッキーと仲間になりたいと思っていた選手はいたはず、ずっと決定的なきっかけを待っていたのかも。
このフィリーズの監督のゲスい態度が、逆にジャッキーを孤独から解放したのだと、正にピンチはチャンスといったシーンだった。
フィリーズの本拠地の街は差別問題を懸念しており、この監督の対応を問題視した。後に球団に無理やり和解させられるが、彼は二度と球界で現場復帰することはなかったそう。(そりゃアフリカ系にいじめられますもん)
個人的に自分がメジャーを観てた時代は、フィリーズ=ライアンハワード(黒人)だったので、この球団にこれほどの差別の歴史があったことに驚いた。
フィリーズ的には彼の存在は消したい過去だろう…
・オーナーの信念とビジネスプラン
なぜオーナーがここまでジャッキーを守ったのか?
ジャッキーを守り続けたドジャースのリッキーオーナーは、前から二グロリーグの才能ある選手を補強していたいと考えていた。それは単純にチームを強くしてワールドシリーズを制覇するため、いわばビジネスとして。
そしてリッキーオーナーが信仰してた教えの中には、差別を良くしない考えがあり、実際にジャッキーと触れ合う中で、そのアンチ差別の信念は強くなっていく。
ビジネスと信念が合致していたことで、人生やキャリアを捧げてでもジャッキーロビンソンを守り続けたのかなと。
球団や自分に届く脅迫の手紙も笑い飛ばし、前向きであり続けた。
リッキーとジャッキーの会話も自然とフィーリング的になっていく様が良い。当初のビジネステイクな会話は消えて、自然な友達のようになっていく。
リッキー「フロリダは芝が美しい、ニューヨークじゃこうはいかん」
ジャッキー「草を刈るときの匂いが好きです」
リッキー「俺もだ」
↑初デートのカップルか!ここのシーンが特に大好きだった。
リッキーを演じたのがハリソン・フォードだったと知ったのは鑑賞後で、かなりビックリした。ハリソンはリッキーという人物を尊重し、自分の個性を隠すために鼻と顎に特殊メイクを施していた。リッキーオーナーの生き様を勉強し、なりきるために相当努力していたという。実際に映画を観てみると「どこにハリソン・フォードがいるんだ?」ってぐらい溶け込んでる。
・ジャッキー・ロビンソンとスター選手のヒース
シンナシティでの試合では、これ以上ないブーイングを浴びるジャッキーだが、ショートを守っていたヒースはジャッキーの元に歩み寄り、彼をなだめる。
「全員が42番を背負えば違いはわからない」とジャッキーと肩を組む。
このシーンでは白人の子供のジャッキーへのブーイングが印象的。「何で黒人だからってブーイングしなきゃいけないの?」という顔。親はブーイングも野球の一部ような顔をしてるが、子供は何か腑に落ちない表情をしてる。
ドジャースのスター選手であるヒースがジャッキーに歩み寄り肩を組むと、完全に罪悪感に満ちた顔に変わる。
野球が子供に示すものを冷静に考えた時に、1日でも早くアフリカ系へのブーイングを終えるべきだったと。アメリカの国技の中でどれだけ閉鎖的で残酷な観戦を続けていたのか・・・。
このヒースはドジャースのキャプテンでもあり、後に野球の殿堂入りを果たす名プレーヤー。
ジャッキーが罵声を浴びるたび、ヒースは彼と肩を組み、ブーイングが鳴り止むのを待っていたそうだ。
▼その時の姿は後に像となっている
▲現在、ドジャースでは背番号1番が永久欠番になっているが、それはヒースの背番号だ。
ロビンソンは後年、
「彼は何度も自分を助けてくれた。しかし、一度もそれを誇らしげにすることも無かった」
とリースを讃え、
ロビンソンと同じ初期の黒人メジャーリーガーだったジョー・ブラックはリースと対面した時、
「我々黒人はあなたを愛してる。あなたがジャッキーの肩を抱いた時、
あなたは黒人全ての肩を抱いたんだ」
と言った。引用元:Https://Blogs.yahoo.co.jp/Cubsss5/49075238.Html?__ysp=44K444Oj44OD44Kt44O844Ot44OT44Oz44K944OzIOOCt%2BODp%2BODvOODiA%3D%3D
野球の名キャプテンといえば、近年に引退したヤンキースのデレク・ジーターが象徴的だが、彼より何年も昔に名キャプテンが存在してたとは知らなかった。このヒースという選手の存在が知れたことは、この映画を観た中でも最高の収穫であった。
松井秀喜や国際的な選手が多いヤンキースをまとめたジーターも、このヒースに感化された選手の一人。彼を愛するなら、そのルーツのヒースも愛するべきだ。
・結局ジャッキー・ロビンソンはどんな選手だったのか?
個人的なジャッキー・ロビンソンという選手・・・野球の中で言えば「いやらしい選手」だったと思う。
動揺を誘うような走塁を持ち味にしていたこと。何年も連続で盗塁を成功させてきたのは、ただ脚力があっただけでなく、相手バッテリーの欠点や隙を見つけるのがうまかったからだと思える。
ホームランは少なく、ヒットを量産するタイプ。どのシーズンも2桁(本塁打)は打てたので、打とうと思えば長打も打てたが、狙って単打を稼いでいたのかな・・・と。
メジャーに10年間在籍して通算打率3割を誇るのだから、それは選手としても超一流。通算盗塁に限っては196個も決めている。
ただ、偏見と戦い抜いただけでなく、選手としても正真正銘「スター」であったと再確認できた。
DETA
Year:2013/Country:USA/Studio:Thomas Tull
Director:Brian Helgeland
Cast:
- Chadwick Boseman As Jackie Robinson
- Harrison Ford As Branch Rickey
- Andre Holland As Wendell Smith
- Christopher Meloni As Leo Durocher
- John C. McGinley As Red Barber
- Toby Huss As Clyde Sukeforth
- Lucas Black As Pee Wee Reese